2024年4月17日
2019年2月21日
起業や法人化についての相談を受けると、相談者から「えっ、そうだったの!」と驚かれる時があります。今回は起業後、会社設立後に慌てることがないように、知っておくべき3つのポイントをお伝えします。
1. 会社設立の難関は、法人銀行口座開設と知っておくべし
株式会社を設立する場合、最低限必要な手続きの流れは、以下になります。
1. 定款の作成と認証
2. 登記書類の作成と申請
3. 開業の届出
4. 健康保険・厚生年金への加入
5. 法人銀行口座の開設
このうち、「定款の作成と認証」、「登記書類の作成と申請」、「開業の届出」、「健康保険・厚生年金への加入」は行政の手続きになり、「法人銀行口座の開設」は金融機関の手続きになります。創業者には、行政の手続きが困難と考えている方も少なくないですが、最大の難関は、「法人銀行口座の開設」の方です。行政機関の手続きは、よほど事由がない限り、不許可になることはありません。しかし、金融機関の手続きである「法人銀行口座の開設」には金融機関の審査があり、この審査が近年非常に難しくなっています。
かつては書類を提出すれば事務的に開設できたのですが、振り込め詐欺やフィッシング詐欺などのネット詐欺の増加が、審査が難しくなった背景と言われています。ネット詐欺によって集めされたお金が、反社会的勢力などに流れることを防止(マネーロンダリング)するために厳しくなっているのです。
この法人銀行口座は、法律的に必ず開設しないといけないかというと答えはNo。絶対に開設しなければいけない、ということはありません。しかし、日本の商慣習上、法人を設立したにもかかわらず個人口座で取引をすると、「この会社は、怪しい会社じゃないのか?」と信用失墜を招くため、事実上開設しなければいけないというのが実態です。創業者には、会社は設立できたものの、半年経過しても法人銀行口座の開設ができず、事業活動ができないという方もいらっしゃいます。
法人銀行口座開設に向けて用意すべき書類等については、例えば、三菱UFJ銀行のホームページを参考にすると良いでしょう。
参考:法人のお客さまの新規口座開設について|株式会社三菱UFJ銀行
善良な経営者からすると良い迷惑なのですが、世の中の流れがそうなっている以上は私達もそれに合わせて万全の体制で臨みましょう。
2.顧問税理士には、必ずついてもらうべし
会社設立相談でよく聞かれることは、「顧問税理士って必要なのでしょうか…?」という質問です。『国税庁実績評価書』を見ると、平成29年の実績と法人税の88.9%に税理士が関与しています。
「法人化したなら、顧問税理士は必要ですよ」と、私は答えています。
顧問税理士のコストは、創業1年目の小規模企業でも年間20~40万円がボリュームエリアと言われており、創業当初としてはその負担は小さくはありません。ゆえに「顧問税理士は、売上が大きくなってからにしたいのですが・・・」と話す創業者もいらっしゃいます。しかし、創業当初だからこそ、顧問税理士は必要です。
法人では個人事業の確定申告よりも、会計が複雑になり精度も求められます。また個人事業であれば、税務署などによる無料相談や青色申告会からのサポートを受けることができますが、法人にはこのようなサポートほとんどなく、自力で行わなければなりません。そのため、本業にかけなければならない時間が会計に取られてしまい、特に社長1人で会社設立する場合は、売上に悪影響を及ぼす可能性があります。
実際には、私の知る会社で、自力で会計をしている社長はいます。その会社は、複数人の従業員をかかえていて、実務は従業員が行い、社長はマネジメントに専念できる体制があるので、会計を自力で行うことができるのです。
創業当初だから顧問税理士をつけないのではなく、創業当初だからこそ顧問税理士が必要になると考えておきましょう。
3.借入金は最大まで借りておくべし
会社員から起業した方は、「借金(借入金)=悪」と考える方も少なくありません。例えば、東京都内で飲食店を開業しようとすると、1,000万円前後はかかってしまうため、多くの創業者は金融機関からの借入金に頼ることになります。これだけの借入金を背負うと心理的プレッシャーや支払う利息が大きくなり、創業者自ら金融機関から提示された借入限度額より融資額を減らしてしまうケースもあります。しかし、創業時の借入金は、借入限度額いっぱいまで借りておくことがセオリーだと考えてください。
ある店舗経営者の事例で、多額の借入金を背負うのが怖く、ギリギリの借入金で店舗開店の準備をしていたところ、後からその店舗が消防法に適合していないことが判り、営業許可が下りませんでした。営業許可を取るには消防法に適合するための設備導入が必要だったのですが、それには100万円近くの費用がかかり、ギリギリの借入金で開業していたため、その資金がなかったのです。慌てて金融機関に駆け込んだものの、追加の借入金を断られてしまいました。創業時の追加融資は、とても難しいのです。その結果、この会社は、営業許可が下りないため売上が立たず、一方で家賃は毎月出ていくというという、八方塞がりな状態に陥ってしまいました。
この事例のそもそもの発端は、消防法をしっかり確認しておかなかったことですが、もし、消防法に適合させる設備を導入するだけの資金が手元にあれば、少なくとも営業許可は下りたかもしれないのです。
たしかに、金融機関からの借入金をすると利息もかかりますが、個人のローンと違い、事業の借入金の利息は経費になります。それにより納付する税金を下げる効果があります。このことを「負債の節税効果」または「タックスシールド」と言います。必要以上の借入金は経営を圧迫する原因になりますが、適度な借入金は会社経営の潤滑油になります。
創業時の借入金は最大限まで借りて、残ったお金はもしものために取っておき、支払う利息は掛け捨ての保険料を割り切ると良いでしょう。
次回は、法人化の形態についてお伝えします。法人化の形態で有名なものは株式会社ですが、それ以外に合同会社、有限会社など複数の形態が存在します。それぞれの特徴やメリット・デメリットについて、分かりやすく解説していきます。
この記事の執筆者
合同会社ファインスコープ 代表社員
中小企業診断士
西條 由貴男
食品機械メーカー、研修会社を経て、2011年に独立開業。東京開業ワンストップセンターや岡山県よろず支援拠点などの公的支援機関にて、中小企業の経営サポートを行う。著書は「起業のツボとコツがゼッタイにわかる本(秀和システム)、「中小企業診断士のお仕事と正体がよ~くわかる本(秀和システム)」など全6冊出版。