個人事業主が法人化するのにベストなタイミングとは?

2024年4月9日

2019年1月31日

「これから起業しよう!」と思った時に、個人事業から始めるのが良いのか、いきなり法人から始めるのが良いのか、で迷われる方は多いです。この相談をされた時に、私は「まずは個人事業から始めて、ビジネスの見通しがたったら法人化したらどうですか?」と答えることが多いです。
法人化をするには、会社設立の法定費用だけで、株式会社で約24万円、合同会社でも約10万円かかり、多くの書類を作成する必要もあります。
一方、個人事業であれば、基本的に「個人事業の開業・廃業等届出書」と「所得税の青色申告承認申請書(任意)」の2枚の書類を最寄りの税務署に提出するだけです。法定費用もゼロ円で始められます。ゆえに、まずはコストを抑えられる個人事業から様子を見て、事業が軌道に乗り始めたら法人化という流れがベターと考えます。この個人事業から法人への転換を「法人成り」と言います。

では、この法人成りのベストタイミングはいつでしょうか?
今回は法人成りのベストタイミングについて「利益」、「売上」、「お客様」、「商品単価」の4つの視点で解説していきます。

1. 利益による視点


まず、売上額から経費を差し引いた利益が一定の金額以上になったら、法人成りを検討します。ではその一定額とはいくらでしょう?ここは税理士の先生の専門分野ですが、私が聞いた中では、下は300万円から上は2,000万円と、税理士の先生によってもバラツキがありました。その中でもボリュームエリアとしては、500万円~800万円と話す税理士の先生が多いです。
この理由として、個人事業の主たる税金である所得税は、利益が大きくなればなるほど税率が高くなる累進税率が採用されているのに対し、法人の主たる税金である法人税は、利益の大きさに関係なくほぼ一定となる比例税率が採用されているからです。ただし法人化をしますと、税理士報酬(依頼は任意ですが、国税庁の調査では法人税の税理士関与割合は88.7%)や決算公告費用(株式会社の場合)などの、運営コストがかかるため、それらを考慮して、利益500万円~800万円と言われることが多いのでしょう。
利益額によって、ある程度の法人化の目安を知りたい場合は、「スモビバ」の「起業のかんたん税金計算シミュレーション」で試算してみるとよいでしょう。
起業のかんたん税金計算シミュレーション(スモビバ)

2. 売上による視点


2019年10月から10%への引き上げが予定されている消費税。この消費税も法人成り判定の要因になります。では、この消費税はいつから納付しなければならないのでしょうか?国税庁のホームページを見ると「基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年)における課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税の納税義務が免除されます」と掲載されています。これを言い換えると「課税売上高が1,000万円を超えた事業者は、その翌々年から納税義務が発生します」という意味になります。では、この翌々年までの間に法人成りをするとどうなるのでしょう?これも国税庁のホームページに答えが掲載されています。
個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定(国税庁)

個人と法人はあくまで別人格と判断されるため、法人成りをすると実質的に納税義務を延ばせることになり、売上1,000万円を超えてから法人成りを検討する個人事業者は多いです。ただし例外事項もあるため、詳しくは税理士に確認するとよいでしょう。
法人成りのチャンスは原則1回ですので、それまでに法人成りを温存しておくもの、ひとつの経営戦略でしょう。

3. お客様による視点


お客様が企業の場合は、利益や売上に関係なく早めに法人化を検討します。なぜなら企業は個人事業者との取引を避ける傾向があるからです。例えば、東京で開業が多い業種である研修講師やコンサルタントの場合、これらの業種と取引する企業は、報酬の源泉徴収と厳密なマイナンバー管理を行う義務が発生します。この源泉徴収とマイナンバー管理は結構手間がかかりますので、できることならやりたくない、というのが企業の本音です。すると、同じスキルを持っている研修講師やコンサルタントなら、法人化している方と取引しよう、ということになりやすいからです。それ以外にも、法人は個人事業よりも信用度が高くなるというメリットもあります。お客様が企業の場合は、多少リスクを背負ってでも、早めの法人化を検討していきます。
一方、お客様が消費者の場合、お客様は個人事業か法人かを気にしないことが多いです。例えば、あなたが飲食店に食事に行った時、その飲食店が法人か個人事業かを気にしたことはあるでしょうか?ほとんどの人はお店選びに、「料理の味」、「店内の雰囲気」、「接客」などは気にしても、個人事業か法人かを気にすることはないでしょう。お客様が消費者の場合は、個人事業でも不利になりにくいため、法人化のタイミングを遅らせてもよいでしょう。

4. 商品単価による視点


一般的に、お客様が消費者の場合、お客様は個人事業か法人かを気にしないことが多いとお伝えしましたが、商品単価が高額な場合は、少し早めの法人化を検討していきます。例えば、住宅建築で考えてみましょう。住宅は消費者の買い物としては一番高い買い物であり、安く見積もっても2,000万円以上はするでしょう。これだけ、高額な商品となりますと、住宅そのものだけでなく「売り手の信用」も重視されてきます。個人事業の工務店でも、腕の良い大工さんはたくさんいますが、保証などを含めたトータルイメージとなりますと、やはり法人に軍配があがります。高額の基準はお客様の価値観によるため、一概にいくら以上とは言いにくいですが、感覚的に高額と思える商品を販売する場合は、少し早めの法人化を検討するとよいでしょう。

次回は、個人事業主が法人化する際に、知っておくべきポイントについてお伝えします。私が受ける創業相談でよく相談されるお悩みについてお答えしていきます。


この記事の執筆者


合同会社ファインスコープ 代表社員
中小企業診断士
西條 由貴男

食品機械メーカー、研修会社を経て、2011年に独立開業。東京開業ワンストップセンターや岡山県よろず支援拠点などの公的支援機関にて、中小企業の経営サポートを行う。著書は「起業のツボとコツがゼッタイにわかる本(秀和システム)、「中小企業診断士のお仕事と正体がよ~くわかる本(秀和システム)」など全6冊出版。

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